ガン類にとって脅威(きょうい)となる病気のもとは、鳥コレラ・ボツリヌス菌などの細菌です。鉛・水銀などの重金属も中毒を引き起こします。
(鉛中毒になったハクチョウのレントゲン)
(鳥コレラで死んだハクガン)
|
|
★★ 解説 ★★
自然界には様々な微生物が存在し、大気や水の中にはもちろん、体の内側、特に腸に多数います。ガンの場合には、ねぐらの湖沼で水を飲み、水浴びをし、しかもそこでフンもするわけですから、常に細菌が体の中を循環していることになります。もともと野生の鳥は普通の状態であれば細菌に感染しても症状は表れず、細菌に対する抵抗力ははるかに強いと思われます。しかし、たくさんの鳥が一箇所に集まると、排出される細菌の数が増して、発病につながる危険性が高くなります。また、いままで持っていなかった細菌に感染し、それを自分の繁殖地(はんしょくち)に持ち帰ってしまう恐れもでてきます。
さて、ガン類に見られる感染症(かんせんしょう)として最も代表的なのが鳥コレラです。人がかかるコレラとは別のものです。また、ボツリヌス菌は人間にとっても恐ろしい細菌の一つで、土・水・動物の体内にもともと存在しています。この菌が増えるときにできる毒素(どくそ)はとても強力で、わずか1gで15人が死ぬほどです。中毒が起きるには、細菌がある程度まで大量に増殖(ぞうしょく)する必要があるので、そうした要因を作り出さない、あるいは低減させることが必要になります。
近年日本でも問題になっているのが、鉛による金属中毒です。ガンは食べたものを筋胃ですりつぶすため、土や小石を必要とします。湖沼の岸辺で採食するときには、散弾銃の鉛製の粒が落ちていることが多いので、植物と一緒に鉛玉を誤って飲み込む恐れがあります。特に春先北海道で鉛中毒になったマガン・ハクチョウが多数見つかっています。オオワシやオジロワシも、鉄砲で撃たれたエゾシカの肉を食べて鉛中毒になります。鉛中毒になると、緑色のフンをする、食欲がなくなる、翼の筋肉が冒されて羽がダラリと垂れたままになるといった症状が表れます。中毒症状を呈したガンは、一人群れから離れて茂みなどに潜んで過ごします。死んでも発見されなかったり、キツネや野良犬に死体が他へ持ち去られてしまうケースもあり、どのくらいのガンが犠牲(ぎせい)になっているのかは明らかではありません。治療にはCa-EDTAというカルシウムを静脈から打ち、鉛を体内から排出させます。
多くの水鳥が一箇所に集まる様子は、鳥を見る人間の立場からすると願ってもない光景です。しかし鳥にすれば、様々な危険といつも背中合わせに暮らしている訳で、望ましい状況とはいえません。増してや散弾銃に関しては、鳥の命を直接狙うだけでなく、当たらなかった鉛玉が環境の中に広く分散して間接的に命を奪う結果につながります。ガンは鉛玉が何であるかを知る術がありませんので、人間の責任において回収し、これ以上出さないようにする手立てを講じなければなりません。
|