ガンの社会には、群れ全体を率(ひき)いるリーダーはいません。また、V字型の列も常に一定の形をしているのではなく、V字型の鉤(かぎ)になったり、一本の棹(さお)に変わったりします。
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★★ 解説 ★★
群れや社会には、たいていメンバー全員を統率(とうそつ)する強いリーダーが存在します。会社なら社長さん、部族には酋長(しゅうちょう)や長老(ちょうろう)がいて、組織全体を指揮しています。しかし、ガンの群れはいくつかの家族が集まってできたもので、あくまでも単位は「家族」や「つがい」にあります。強いて上げれば、見張りをしているオス親が家族を安全なほうへ導いたり、飛び立つときの合図を大抵はじめに出したりするので、リーダー的な存在と言えなくもありません。しかし、オスが飛び立つ合図をしたからといって、オスの都合だけで家族がすぐに動くことにはなりません。メスや幼鳥が同じ仕草で応えて自分も飛ぶ用意があるという意思を伝えた後、ようやくこの家族は飛び立ちます。つまり、リーダー一人の意見や多数決では物事は決まらず、家族全員の一致が原則なのです。増してや、特定の一羽のガンが他の全ての鳥を支配しているわけではありません。
しかし、「飛びたい」という仕草や「危険だ!」という警戒の声は、家族の間を越えて他の家族にも瞬時に伝染します。例えば、ある一羽の見張り中のガンが危険を知らせる声を出すと、頭を下げて採食していた他の鳥は一斉に首を伸ばし、横目でその方向を身動き一つしないで見つめます。この警戒中の姿勢から「雁首(がんくび)を伸ばす」という表現が生まれたほどで、群れ全体に一種の緊張感が漂い、それ以上外敵が近づこうものなら、大きな羽音を立てて一度に飛びあがります。こうした様子を見て、警戒していた個体をリーダーと思ったのでしょう。しかし、他の家族の何羽かが見張りを始めると、先ほどまでのガンは警戒を止めてしまいます。誰がどのくらい見張りをしたら交代するのかが決まっている訳でもなく、そのような分担が自然に行われています。
同じように特定の鳥に負担がかかるのを避ける仕組みが、V字型になって飛んでいる間も機能しています。あの綺麗(きれい)な逆V字の列は、その位置が固定しているのではなく、ある鳥の右にいるものが左の鳥よりも少し前に出、その右側のものが更に一歩前に出ることを繰り返すと、一本の棹状になります。今度は逆に左側の鳥が前に出、更にその左側の鳥が前にでると、途中で一度逆V字型に戻り、ついにはまた棹(さお)になります。つまり先頭の鳥が後になったりまた先になったり、常に入れ替わりながら飛んでいるのです。一番前はみんなで交代して受け持つことになるので、もし先頭がリーダー役だとしたら、全員がリーダーになってしまいます。
先頭が成鳥、幼鳥であるに関係なく、常に家族同士で方向や存在を確認しながら飛んでいます。このことは次の質問にも関係しますので、ここではガンの群れにはリーダー的存在がいない点だけを答えておきます。
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