方位磁針はあっても地図がないのと同じです。およその方向が分かっても、自分が渡って行く目的地は、親から学習して覚えなければなりません。川や山脈、島や半島など特徴的な地形が渡りの道筋の大切なポイントになります。
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★★ 解説 ★★
方向を察知する能力はもともと自然にそなわっていると言われ、太陽や星の位置、磁力などを利用して方向を知ると考えられています。ですから、親からはぐれた若い鳥は、日が短くなればとりあえず南を目指して飛んでいくことは可能です。しかし繁殖地から南へ向かうとき、角度がほんの数度ずれただけで、目的地は大きく違ってしまいます。運が悪ければ、カムチャツカを出た後一向に陸地が見えず、海上で力尽きてしまうかもしれません。また、日本を通り越して韓国や中国など、本来の行き先よりはるか南まで行ってしまうこともありえます。正確な方向とどこまで行くのか、あるいは海や高い山を越える前に休む適当な場所などは、ガンの場合、親鳥に率いられ繁殖地と越冬地の間を飛びながら一往復で覚えます。その際特徴的な地形、例えば山や岬、湖や川の流れが渡りの道しるべになります。
秋と春の渡りでは微妙にコースが違ったり、同じコースでも休む期間の長短に差が生じる場合も見受けられます。特に春の渡りのときに変動が大きいようです。周辺の採食地の積雪量やねぐらとなる沼の氷が解けているかどうかなどの条件が影響しているのでしょう。雪解けが早く中継地をいくつか通過していくことも、また寒波再来で越冬地に舞い戻ることもありますが、基本的には同じ線上の動きで、一度学習したコースは限られたケースを除いて変わりません。
逆に、一度学習した渡りのコースを変えなければならないこともあります。これはオオヒシクイ以外のほかのガンで確認された例なので、必ずしもオオヒシクイに当てはまると言い切れませんが、参考までにお話します。
まず、つがい関係を結んだときです。別々の場所で繁殖した若い個体がたまたま同じ越冬地に渡って行き、そこでつがい関係を結んだ場合、オスは自分の繁殖地には戻らずメスの繁殖地について行きます。逆に、換羽地でつがいになったときは、メスはオスの越冬地に渡るようになります。
もう一つの可能性は直接確かめられてはいませんので、あくまで仮定の話として紹介します。ある繁殖地から一つの地域に越冬に渡っていたガンの群れがいました。しかし、そこでたくさんのガンが伝染病で死んだり鉄砲で撃たれて、春に帰るときには相当少ない羽数に減ったとします。すると北に帰る途中で出会った他の大きな群れに合流し、以後かつての繁殖地には戻らなくなる、という例も存在すると考えられます。
つがい関係を結んだ場合の渡りのルート変更は、自然下の出来事ですから問題ありません。しかし、後の仮説のような事態が実際に起きているとなると、数が一方では減り別のところで異常に増える訳です。迫害を受けた移民・難民のようなもので、人間の影響による社会的な増加が実際にあるとすれば、その原因を取り除く必要があります。
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