前の解説の中で、6月の末から7月の中旬と書きました。もう少し具体的には、繁殖(はんしょく)に成功したガンではヒナが孵化(ふか)して二十日ほど経ってから、まだ繁殖(はんしょく)に参加しない若いガンや、途中で失敗したガンは、それより早く夏至(げし)過ぎに換羽(かんう)の時期を迎えます。
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★★ 解説 ★★
換羽(かんう)は、基本的には日照時間の短縮によって引き起こされます。ですから、繁殖(はんしょく)にいたらない若い個体や、繁殖(はんしょく)に失敗したガンでは、日長時間が一番長い夏至(げし)を過ぎると換羽(かんう)に入ります。換羽(かんう)をうながすのは、甲状腺ホルモン(T4:サイロキシン)の働きによります。このホルモンは生殖器官の活動を抑える役目もあるので、換羽(かんう)に入ったガンが産卵することはありません。
一方、繁殖(はんしょく)がうまくいったつがいでは、夏至(げし)が過ぎても直ぐには換羽にいたりません。親が飛べるようになってもヒナが飛べないのでは(あるいはその逆でも)、一緒に安全な場所へ移動したり、飛行訓練をすることができません。ヒナは孵化後(ふかご)50-55日で飛べるようになりますから、逆算するとヒナの日齢が20日頃に親の羽が抜けると飛翔可能な時期が一致します。また寒さや雨から守るため、まだ小さいうちはメスが翼の下にヒナを集めて温めますが、二十日も経っていれば、ヒナは体重もかなり増え自分で体温を維持できるようになります。
先ほど、甲状腺ホルモンの作用で換羽(かんう)が促進されると書きました。もう少し詳しく説明すると、卵胞ホルモン(Es:エストロゲン)の割合が低くなり、甲状腺ホルモンの割合が高くなる(Es<T4)と換羽(かんう)がはじまります。つまり両者の比率が重要なのです。卵胞ホルモンは生殖活動を盛んにするホルモンで、甲状腺ホルモンとは逆の働きがあります。繁殖(はんしょく)に成功した親においては、日照時間の短縮よりもヒナの存在の方が刺激が強く、甲状腺ホルモンより卵胞ホルモンの方が依然として高い濃度で血中に含まれている(Es>T4)ことが考えられます。
直接卵を産み、温めるメスが性殖ホルモンの影響で換羽(かんう)が遅れるとしたら、それは容易に理解できます。しかし、オスもヒナの有無によって換羽(かんう)の時期がずれるわけですから、ヒナの存在は非常に影響が大きいといえます。自分では産卵できないオスも「妊娠」同様の状態になり、メスと同じ生理機能が働くようです。
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