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ホーム > 32. オオヒシクイのヒナは、「遊び」をしますか。前 - 次

 どのようなことを指して「遊び」というのか、その定義(ていぎ)や内容はわかりませんが、「遊び」に見えることはします。たとえば、一本の小枝をくわえては落とすのを繰り返したり、水浴びをしながら水上で「追いかけっこ」、「でんぐり返し」をします。ゆれている葉を食べないでただかじっているのも見ました。

オオヒシクイの水浴び
(オオヒシクイの水浴び,撮影:滋賀県西池)

★★ 解説 ★★
 「遊び」には、子供や犬猫が意味もなくただ無邪気(むじゃき)に戯(たわむ)れていることと、大人がすることをまねた、二つの要素があると思います。人間の場合、後者では「飯事(ままごと)」や「電車ごっこ」「鬼ごっこ」が代表的です。特に「飯事(ままごと)」は、実生活とは直接関係のない真似事(まねごと)に過ぎないのですが、実はそれぞれの家庭の事情を反映していたり、将来その人が持ちたいと願う理想の家庭の縮図であったりします。また、その人の性格や考え方が現れます。しかし、子供の社会とはいえ一定のルールがあり、他者とのやり取りのなかで、役割を自覚したり、技術を身に付けます。すると、遊びは全く無意味な行動ではなく、社会性を身につけるための貴重な予行練習といえます。
 さてヒナの行動を見ると、一羽で何かを齧(かじ)っているのは、実は食べられるものとそうでないもの、おいしいものとまずいものを確かめながら覚えているのかもしれません。木の枝を拾い上げたり落としているのは、食べるもののくわえ方やしごき方を練習しているようにも見えます。何羽かのヒナで水面を駈けまわっているのは、ヒナの間の順位を巡って力試しをしているようにも受け取れます。兄弟げんかが高じて胸を突き出し、短い翼を後方でばたつかせ、肘(ひじ)の部分で相手を殴(なぐ)る場面もありますが、それは繁殖の相手を巡ってオス同士で争うときと全く同じです。喧嘩(けんか)に勝った方は、羽を少し広げ気味にし、首を前に伸ばして地面と平行に保ちながら親のもとへ帰ってきます。この行動は、近寄ってきたよそのオスを追い払った時に、つがいになっているオスがメスに見せる得意げなポーズと共通です。負けたほうは首が根本部分で丸く萎縮(いしゅく)してしまい、完全に「参った」という姿勢をとります。この「勝ち」と「負け」の姿勢を示せば、喧嘩(けんか)はそれ以上エスカレートしないで終了します。もしそれでも喧嘩(けんか)が続くようですと、ルールを破ったことになり、親が仲裁(ちゅうさい)に入ります。
 話は「遊び」から「喧嘩(けんか)」にまで広がってしまいました。しかし「遊び」は、成長してから必要な社会の約束事を学ぶための大切な行為で、ヒナにとってはむしろ不可欠な学習といえます。最近の子どもは直ぐに「切れる」そうですが、幼い頃の遊び不足が原因の一つに上げられています。少ない兄弟、失われた遊び場、家庭を顧みない親。どうやら人間のほうがガンに見習うべき点が多そうです。
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