孵化(ふか)すると数時間で目が開いて歩けるようになります。するとヒナは自分で足元の草を食べ始めます。親は直接食べるものを与えませんが、安全で草の豊富なところへ早く連れていかなければなりません。
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★★ 解説 ★★
23の解説でも触れたとおり、ガンは「早成性」の鳥です。むき出しの巣では敵に見つかりやすいので、ヒナは孵化(ふか)して間もなく歩けるようになり、家族そろって安全な場所へ早々と移動します。オオヒシクイの家族が最初に生活する場所は、「タイガ」の森の中を縫うように流れる小川です。木の枝が水面の上を覆(おお)っているので、空から敵に見つかりにくい環境です。川の所々にはスゲの仲間の新芽が豊富にあり、毛足を綺麗(きれい)に刈りそろえた絨毯(じゅうたん)のように生えているので「カーペット」と呼ばれています。親はそのような場所にヒナを導き、ヒナは嘴(くちばし)の「嘴爪」部分で新芽を引っ張って食べます。耳をすませると、その「プチッ、プチッ」という小さな音が聞こえます。だいたい6回ぐらい引きちぎると、顔を起こして飲み込みます。食べたものは30分ぐらいで出てきてしまうので、食べては休むの繰り返しです。
親が採食にふさわしい所に案内したからといって、そこに生えている柔らかい草だけを食べるとは限りません。ヒナは非常に好奇心が旺盛で、休んでいる間でも、近くにあるものを摘んだり齧(かじ)ったりします。摘み上げたので「食べるのかな」と思っていると、嘴(くちばし)から放してしまうこともあります。もしかしたら味や食感が気に入らなかったのかもしれません。中にはとても飲み込めるとは思えないような小枝を正面から齧(かじ)りついたり、枝からぶら下がっている葉を噛(か)んだりします。遊びをしながら、食べるものを覚えているように見えます。あるいはあごの筋肉を鍛えているのかもしれません。
さて、オオヒシクイの家族はヒナの成長に合わせるかのように川を下ります。本流へ向かって移動するにつれ、食べるものも歯ごたえのある植物に切り替わっていきます。ヒナの成長と必要とする植物の生育具合がだいたい一致するのが不思議なところで、自然のもつ仕組みにはいつも驚かされます。
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