オオヒシクイの卵はニワトリの卵2個分の重さで、約130gです。大きさは、長径87.3×短径58mmです。殻(から)の表面に斑点(はんてん)はなく、色はクリーム色を帯(お)びています。
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★★ 解説 ★★
オオヒシクイは未だに繁殖(はんしょく)に関しては不明な点が多いガンで、野外では巣も卵も見つかっていません。上の数字は、1998年にカムチャツカの繁殖(はんしょく)施設で生まれた卵、五個を調べた結果です。同じ年の六月、カムチャツカで初めてヒシクイの巣が見つかりました。ヒシクイの卵の大きさは、長径88.8×短径55.3mm(五個の平均)でした。また、北極圏で繁殖(はんしょく)するハクガンの卵100個を調べたところ、長径78.8×短径52.2mmで、重さは119グラムありました。これらの結果、親の大きさや体重が違っても、卵の大きさにはそれほどの差は現れないといえます。むしろ、気象条件の厳しい北で繁殖(はんしょく)する種類ほど、体の割に大き目の卵を産みます。また、卵の中身も卵黄の割合が高いことが知られています。
オオヒシクイの卵の栄養成分について、ニワトリの卵をもとに計算してみます。まず、殻・卵黄・卵白の重さはおよそ1:3:6の割合で、卵黄が39g、卵白が78gです。卵一個には約200Kcalが含まれ、そのうちの80%は卵黄にあります。卵黄は、生まれた後数日の間に使う貴重なエネルギー源で、体の基になるのは卵黄(黄身)の上にある胚(はい)ですが,体を作るのに必要なタンパク質は主に卵白(白身)から供給されます。
北に生まれるガンほど卵黄の割合が高いのは、それだけ必要な植物に十分ありつけない可能性が高く、餓死(がし)や凍死(とうし)する危険を避けるための手段と思われます。ビタミンC以外のビタミンも豊富に含み、成長に欠かせないリンや鉄、カルシウムも卵黄の中に詰まっています。さすがにタンパク質は卵白部分に多く、また、人間が必要とする必須アミノ酸の全てを100%含む優れた食べ物でもありあます。この価が100なのは、卵以外ではシジミとアミ(南氷洋に多数生息するエビの仲間)くらいです。栄養価がとても高いので、北極圏にすむ原住民や遊牧民は昔からガン類の卵を貴重な食べものとして利用していました。一つの巣から一個、ないし二個取ってもガン類は失った分を補うことができます。ガンがいなくなると、次の春から卵が食べられなくなるので、決して全部を取り上げるような過ちは犯(おか)しませんでした。
卵にはヒナが必要とする全てが含まれ、その上孵化(ふか)した後数日間の燃料も備(そな)わっています。しかし、大きな卵から生まれたヒナが、必ずしも大きなガンになるとは限りません。お腹の燃料を全て使ったあとで、どれだけ十分な植物が食べられるかにかかっています。
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