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ホーム > 10. オオヒシクイは、なぜ毎年秋になるとカムチャツカから渡ってくるのですか。前 - 次

 冬の間雪と氷に閉ざされて、食べものが取れなかったり、安全なねぐらが使えなくなるからです。

カムチャッカ

★★ 解説 ★★
 私達人間は、衣(着るもの)・食(食べもの)・住(住む家)とそれらを得るための仕事(職)が必要です。オオヒシクイにはもとから着るもの(暖かい羽)が備(そな)わっているので、あとは食と住がいります。「食」は食べる植物そのものだけではなく、それがいつまでも育つような豊な環境を意味します。また「住」は、夜間を安全に過ごすことができる湖や川を指し、必ず水面が開いていることが求められます。氷が張ってしまうと、キツネや野良犬(のらいぬ)などの敵に襲(おそ)われる危険性が高くなりますし、羽を清潔(せいけつ)に保つための水浴びができなくなるからです。そして、この「食(採食地)」と「住(ねぐら)」は、完全に一致しているか、できる限り近くにあるほうが行き来にかかる時間が少なくて助かります。そのどちらか一つでも利用できなくなると、あるいはそうなる前に、オオヒシクイは繁殖地(はんしょくち)であるカムチャツカから南へと移動を始めます。
 例えば、湖はまだ凍(こお)っていないのに草を食べる平原は雪で閉ざされてしまったと想像して下さい。すると、今までは寝ている湖の直ぐ隣で食事ができたのに、今度は北海道まで1000Kmも離れたところへ飛んで行かなければなりません。その間にはものを食べるのに適当な場所がないからです。採食のあと、またカムチャツカへ寝に戻るのでは時間やエネルギーの無駄(むだ)です。そこで、効率よく暮らすため、季節に応じて家族で引越しをするのです。これが「渡り」をする理由で、繁殖地と越冬地の間の定期的な長距離の移動と考えられます。渡りをしなければならない最大の原因は、言うまでもなく気象条件にありますが、寒さが全てではありません。なぜなら、カムチャツカでは多数のハクチョウが越冬しますし、ミカドガンというガンの一種は少数が海で越冬しています。また、同じオオヒシクイでも、八月の下旬に早々と南下する群れもあれば十月まで留まる個体もいて、最近では未確認ながら小数が越冬しているとの情報もあります。渡りの基本的な考え方は上で述べた通りですが、多少の例外があるかもしれません。
 渡りと似たような行動が越冬期間中に国内でも見られます。2001年の一月は宮城県で大雪と低温を記録し、一部のマガンは関東地方へ移りました。ねぐらがある宮城県北部の伊豆沼(いずぬま)蕪栗沼(かぶくりぬま)から毎日関東地方へ350Kmの距離を通うのは、無駄(むだ)が大きいからでしょう。この期間栃木県と埼玉県の境にある渡良瀬遊水地(わたらせゆうすいち)をねぐらに利用していました。同じ時期伊豆沼(いずぬま)から約80Km南の仙台市内にもマガンの群れが定着していました。こうした短期的な移動は、雪の多い日本海側に暮らすオオヒシクイによく見られ、積雪の少ない場所を求めて主に南北に移動します。太平洋側まで山脈を越えて来るものもいて(新潟→福島、秋田→宮城など)、東西間の移動も珍しくはありません。私の個人的な感触では、通う距離が50Kmを越えるとねぐらを移すものが出てくるように思います。
 季節ごとの定期移動が「渡り」で、人間では「出稼ぎ」に例えられます。すると、短期的な国内移動はホテル住まいの「出張」のようなものでしょうか?
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