★★ 解説 ★★
オオヒシクイの生活を調べると、日中の時間の多くを食べるために費(つい)やしていることに気付きます。特に、夜寝る場所(ねぐら)と昼間食べ物をとる場所が異なっている稲波干拓地(茨城県江戸崎町・桜川村)の場合は、朝ねぐらから飛んできた後と、夕方ねぐらに帰る前に盛んに食べています。食べる量がどのくらいかについては、食べるものによって大きく変わります。野生のオオヒシクイの食生活について詳しい調査は行われていませんので、マガンの例を参考にしながら考えてみます。
マガンは一日におおよそ450Kcalの熱量を必要とします。オオヒシクイはマガンの2倍以上の体重があるので、単純に計算すると約900 Kcalとなります。この量は、成人女性が一日に必要とするカロリーの約半分で、オオヒシクイは体重(オスで5.1Kg、メスで4.6Kg)の割にたくさんのエネルギーが要ることが分かります。
この900 Kcalを全部お米からとると、両方の手のひらを合わせて二回すくった量の約270g(玄米100g=338 Kcal)を食べなければなりません。中身がしっかり詰まった米は、1000粒で22グラムですから、270g食べるには12273粒を田んぼで拾わなければなりません。モミが穂にくっついたままですと、一度に100粒くらい得られますが、バラバラに落ちているものを一つ一つ捜して拾い上げるのには、とても時間がかかります。実際に田んぼに落ちているモミは、中身が軽くて機械の力で吹き飛ばされたものが多いので、270g以上食べないと必要なカロリーが取れないと思います。
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熱 量
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タンパク質
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脂 質
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糖 質
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繊 維
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玄 米
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338 Kcal
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7.4g
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3.0g
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71.8g
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1.0g
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ヒシの実
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不 明
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10.5g
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0.7g
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77.6g
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1.1g
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次に、オオヒシクイの好物であるヒシの実で考えてみます。玄米とヒシの実の栄養成分表を上に示しました。ヒシの実は、タンパク質がやや多く脂質が少ない点を除くと、玄米と栄養成分がよく似ています。仮に熱量をほぼ同じと考えると、ヒメヒシの実は一つ約2gの重さですから、50個100gで300 Kcal、150個300gでようやく900Kcalになる計算です。ヒシの実を150個捜して棘(とげ)をとり、それを砂嚢(さのう)で砕くことを考えると、その仕事にかなりのエネルギーを使ってしまうのではないかと、心配になります。
トウモロコシは種類によりますがおおよそ100 Kcal、マコモの地下の根についてはまだ調べていませんが、米やヒシの実よりははるかに少ないと思います。それ以外の田んぼに生えているイネ科の草は、冬の間養分の詰まった種子の部分はなく、葉や茎(くき)の部分しかないので、お米の7から10倍ぐらいの量を食べないと栄養がとれないと考えられます。すると、先ほど計算した玄米270gの10倍では、2.7Kgの草を食べることになります。
オオヒシクイは食べている時間が長く「オオメシクイ」ではないかと思うときがあります。それは、いつでも栄養価の高いものを手に入れられる人間とは違うからでしょう。その代わり、人間は食べるために何か仕事をしなければなりませんが、オオヒシクイは食べること自体が大仕事です。食べて寝てばかりいるように見えるオオヒシクイの生活も、案外と大変なのかもしれません。